女神の鬼(10)レビュー
ヤングマガジン連載中の、田中宏による、広島悪童烈風伝、最新刊。
作者の地元広島を舞台に、族の抗争とそこに集う様々な若者達のケンカエレジーな話がメインな本作、作者の前作、「莫逆家族」と同様に、基本バイオレンスで、時に悲しいエピソードが盛り込まれ、底辺に横たわるどんよりとした暗さと、主人公の底抜けにわめき散らす明るさとのコントラストが非常に際だつ作品である。
その主人公はギッチョと呼ばれる中2の佐川義(さがわ よし)なのだが、この世代達の話が大本ではあるものの、各人が所属することになる族の歴史がかなり重要な割合を占めており、主人公そっちのけで、過去キャラが大々的に暴れ回り、まさに主役が入れ替わったんじゃないのと思うほど、物語は過去と現在を行ったり来たりし、その現在も1983年の過去の話という、なかなか時系列的には複雑でもあり、「BADBOYS」や「グレアー」を読んできた、田中宏ファンならより理解できる話なのだが、この女神の鬼で初めて田中宏に接した人たちは、めまぐるしく立ち替わるキャラクターの話の軸の揺れにとまどうこともあるかもしれない。
とはいえ、もちろん、女神の鬼単独で読んでも問題ないし、過去の広島において起こった出来事、もちろんフィクションなのだが、自分が王国の王様になるんだという、族特有の野望と、個人の幻想故に陥る悲哀は、読んでいて時に痛々しく、切ない気分にもさせる物語でもある。
最新10巻では、広島の主要族・陴威窠斗(ビイスト)の5代目跡目争いを巡る過去の抗争を舞台に、内海鄭司という男の生き様が描かれる。作者の知り尽くした地元広島であるだけに、リアルな広島弁が飛び交う、広島の若き鬼達の儚いドラマに読者は何を感じるのであろうか。
また、本編とは関係ないが、毎巻巻末に掲載される、おまけのクイズページは、単行本を買ってくれるファンのための読者サービスが行き届いていると言えよう。
ストーリー:★★★☆☆|画力:★★★★☆|広島じゃけぇ度:★★★★★
オススメ度:★★☆☆☆(総合:55点)
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